今西真也「キラキラと曖昧」

今西真也
「キラキラと曖昧」

2024.2.17 - 3.23

©Shinya Imanishi
Press Release

会期:2024年2月17日(土)- 3月23日(土) 
営業時間:火 - 土 11:00 - 19:00 (日・月・祝日休廊) 
オープニングレセプション:2月17日(土)17:00 -

nca | nichido contemporary artは今西真也による個展「キラキラと曖昧」を開催いたします。
今西真也は炎や光の陰影、稲妻、パーティークラッカーなど身近なモチーフにし、キャンバスに油絵具を塗り重ね、筆致の跡を力強く残し、削っていく行為を繰り返しながら描いています。本展新作では陰影をモチーフにし、光を受けた、全ての物事に起こる現象の関係性を捉えようとしています。グラデーションを削りながら描くことであらわれるイメージは、鑑賞者の距離や視点、位置を変えるたびに色が変化し、光の移ろいや軌道を見ているようです。距離や視点を変えるたびに新しい表情を見せ、私たちが普段目にし、認識しているものがいかに不確かさであるかを明示しているようです。本展では新作moonlight シリーズを主役とし、インスタレーションを含む絵画16点を発表します。
 



 
あなたにはなにが見えますか?

角奈緒子(広島市現代美術館 学芸員)


公園や砂浜で、木の枝かなにかで地面に絵や文字を書いてみる。地表を引っ掻くと、表面を覆っていた砂の色とは異なる砂土の色が露出し、絵や文字がとても見やすくなる。あるいは、苔生したコンクリート塀を引っ掻いて、まったく悪意のないいたずら書きを施してみる。このような遊び(手遊び)の経験は、きっと誰しもあると思うのだが、今西の「描く」という行為による作品制作は、その延長線にあるような気がしている。今西の制作方法を簡単におさらいしてみると、あらかじめ下塗りした色の上に、別の色を塗り重ね、上の層の絵具を引っ掻いて取り除くことで、隠れていた下の層の絵具の色を表面化させる。「スクラッチ」とも称されるこの技法は、使用する画材の違いはあれど、案外古くから試みられてきた描法で、その最新版、あるいは極めた技術を今西が実践している、とでもいえようか。彼の作品は、そのボリュームと厚みから、レリーフのように見えなくもなく、絵画(2D)と立体(3D)の間に位置付けられることも多いようだが、作家本人としては、意識的に(半)立体状の作品を制作しているわけではもちろんなく、「ただ素直に絵を描いているんです」と語る。
今回の個展「キラキラと曖昧」の主役はMoonlightシリーズとのこと。「Moonlight(月光)」とはいえ、月から放たれる美しい光を表しているのではなく、また「光」そのものをテーマとしているのでもない、という(そう見えることは十二分にあったとしても)。いくつかのルールのもと、いくつものテクニックによって成立するこのシリーズで表されるのは、端的にいえば「グラデーション」である。
あらためて、「グラデーション」とはなんだろうと考えてみる。辞書を頼れば、「1. 物事の段階的な変化。漸次的移行。2. 絵画・写真・テレビの画像などで、明暗や色彩の段階的変化。階調。」(デジタル大辞泉、小学館)とある。一色の場合は、おもに濃淡で変化がつけられ、二色以上の場合は、ある色が少しずつフェードアウトし、その隣で別の色がフェードインしてくるのが繰り返され、色彩が徐々に変化していくような状態を指すのだろう。実際、今西のMoonlightシリーズでも、その両方が試みられてきた。今回は二色、下の層に赤色が、上の層に青色が選ばれている。ほぼ真っ白に見えるような画面にも、じつにかすかに赤みと青みが含まれており、感知できないかもしれないくらいのグラデーションが展開しているという。そして、展示空間に入って、最初に見ることになるキャンバスと、最後に見るキャンバスとを見比べれば(あるいは、比べるまでもなく瞬間的に)、ギャラリーの壁面に並ぶ14枚すべてのキャンバスをとおして、見事なグラデーションが展開していることに気づくだろう。このように、俯瞰的に全体を見渡すことで見えてくる大胆なグラデ、それぞれのキャンバスに近づいたり、少し距離を取ったりすることで画面上に見出すことのできるグラデ、さらにはググッと画面に近寄って、絵具のひと掻きのラインの中に見出せるディテールでのグラデなど、さまざまな段階、規模での、いくつものグラデーションが溢れている。
光の三原色と色の三原色の両方に含まれる赤と青は、それぞれ暖色と寒色を代表するような色でもあり、身近な例でいえば、赤は温水を、青は冷水を指し示したりする。はたまた、赤色で女性を、青色で男性を象徴、暗示することも、(残念ながら)いまなお多く見られる。だけれど、いろんなもの、あらゆることは、そう明確に峻別できるものなのだろうか。私は毎年、庭に咲く紫陽花の色をとても楽しみにしている。紫陽花は、土壌が酸性の場合は青くなり、アルカリ性が強いと赤くなる。紫のような色の花が咲くこともあるが、一口に紫といえども、赤みが強い紫もあれば、青に近いような紫もある。紫陽花はとても豊かなグラデーションを提示してくれる。
今回のMoonlightシリーズは、私には紫陽花に見えてしまうかもしれない。なんていうと心配されてしまうかもしれないけれど、あながち間違っていないようにも感じている。今西が本シリーズで描くのは、具象的なモチーフでも、抽象的な図形でもないことはもちろん理解している。彼は、色を描いているのではないか。しかも、微細に色味が異なっていて、驚くほど曖昧な、キラキラと輝く色を。名状しがたい曖昧な色のグラデーションの奥になにが見えるかは、きっと見る人次第で変わるのだろう。同じ作品を見ているのに、ものの捉え方の違いによって、まったく異なるものが見えている。これぞ絵画の醍醐味なのかもしれない。

今西真也 | Sinya Imanishi
2015年 京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻 ペインティング領域 卒業
主な個展:"GLIMMERING", THE BRIDGE、大阪 (2023), "かーかーかー", nca | nichido contemporary art, 東京 (2022), “羊羹とクリーム”、Bijuuギャラリースペース、京都 (2021) / “Light Exposed”、galerie nichido Taipei、台北 (2020) / “Wind, Rain, and your Words”、Art Delight、ソウル (2018) / “ISANATORI”、nca | nichido contemporary art、東京 (2017)
主なグループ展:”カンサイボイス Vol.2”, nca | nichido contemporary art, 東京 (2023), "ヤンオカ vol.2", MtK Contemporary Art, 京都 (2022) , “Up_01”、銀座 蔦屋書店GINZA ATRIUM、東京 (2021) / "カンサイボイス - A journey through painting today-"、nca | nichido contemporary art 東京 (2020) / "シェル美術賞展"、国立新美術館、東京 (2020) / "Kyoto Art Tomorrow 2019 ー京都府新鋭選抜展"、京都文化博物館 本館、京都 (2019) / "untamed vol.1"、COHJU contemporary art、京都 (2019) / "大鬼の住む島"、WAITINGROOM、東京 (2019) / 日台文化交流展覧会マイコレクション展、寺田倉庫、東京 (2017) / ”echo of the echoes”、武渋谷店、東京 (2017) / 群馬青年ビエンナーレ:群馬県立近代美術館 (2017) / "混沌から躍り出る星たち2015 京都造芸術大学 次代のアーティスト展"、スパイラルガーデン、東京 (2015) / “Sensing body” nca | nichido contemporary art、東京 (2015) / "3331 Art Fair 2015 - Various Collectors’ Prizes - "、3331 アーツ千代田、東京 (2015) / 受賞・奨学歴:シェル美術賞2020 グランプリ受賞 / 第31回ホルべインスカラシップ奨学生 (2015) / 3331 Art Fair 2015 ‒Various Collectors' Prizes‒にて田中英雄賞・小松準也賞 (2015) / 京都造形芸術大学大学院修了展大学院賞 (2015)

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