2010 7.23 - 8.7
Installation >>
レセプション:
7/23(金)18:00 - 20:00
石黒昭「ISHIGURO-YA」
会場:nca | nichido contemporary art
会期:2010年7月23日(金)-8月7日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
レセプション:7月23日(金)18:00 – 20:00
この度、nca | nichido contemporary artは、石黒昭による「ISHIGURO-YA」を開催いたします。
石黒は、西洋の古典絵画からインスピレーションを受け、美の規範を古代ギリシャ・ローマに置きながら、現代の風俗やアイコンへとすり替えた作品を制作しています。また、作品に合わせたインスタレーション空間全てを自らの手によって創り出します。今展覧会では、新作ペインティング作品十点ならびにインスタレーションを発表いたします。
ステガノグラフィック・ロマン
絵画が筆致とストロークによって獲得される美の真理であるという信仰。画布の最終の上層に姿を現したそのイコンをして、私たちは真理の降臨を受け止め続けてきた。
しかしなのだ。もし絵を描くという行為が、何億回という筆致とストロークの果てに真理を世界の深淵へと隠蔽する作業であったとしたならば、絵画の表層を貫いてきたそれまでの美の根拠とは、いったいどこをさまようことになるのだろう。
私が石黒昭の絵画に突き付けられたもの。それがこうした絵画を絵画と認識させる蓋然性への、不穏にして逆説的な問いかけであったといえるかもしれない。そして、それはまさに絵画とは真理を出現させるために描くことではなく、それを隠すために描く行為であったことを直感させることになった。
堅牢なるミュージアム。あの分厚い石壁によって構築された美の要塞に君臨してきたハイアートとしての名画を相手取り、石黒はそれぞれの描写法を丹念に研究し、それをそのまま踏襲するかのように、ローアートの神々である現代の愛玩のキャラクターを描き、あえてその美の殿堂の根拠に染み込ませてみせる。もちろん石黒は古典的な描法で描いたその妖艶なる美少女キャラクターを息づかせようとしているのではない。絵画をその住み処とする女神や天使のイコンをアリバイや口実として援用しつつ、むしろ滑稽なまでの緊張感を強いる表層への違和感をして、絵画というその超薄の画布に潜められた真理の存在の予感へと、私たちを導いていくのだ。
そのありようは奇しくも、情報ハイディングの源流ともなったステガノグラフィーの最古のモデルが、ヘロドトスの歴史書に記されるように、木板に書かれた秘文をワックスで隠すことであったように、真理が隠蔽されることによって真理たり得るという逆説を、数億回の筆致とストロークによって、浮上させるのではなく、再び隠蔽させる営為にほかならない。
描かれたものを英雄とする信仰を破壊し、隠されたものを隠し続ける力こそ、画家に求められるものではなかったか。石黒昭はその力をもって、この表層的世界に安住するすべての価値の転覆を、ほかならぬその表層において、鮮やかに、そして、ロマンティックに示してみせる。
南嶌 宏
<石黒 昭>
1974年 神奈川県横浜市生まれ。
主な展覧会:「For Rent! For Talent! 5」三菱地所ARTIUM (2009) 、「GEISAI#12」(2009)、「GEISAIミュージアム#2」(2008)、「GIFT」Gallery LE DÉCO(2008)、「Debli Project Art Tour」(2008)、「Debli Project」(2007)、「GEISAI#5-10」(2004-2006)
掲載記事:「美術の窓」2010年5月号
<南嶌 宏>
筑波大学芸術専門学群芸術学専攻卒業。インド放浪を経て、いわき市立美術館、広島市現代美術館の運営に参画する。1993年にカルティエ現代美術財団奨学金を得てパリへ留学。2000年から熊本市現代美術館の運営に参画し、2002年より同美術館学芸課長・副館長・館長を歴任。2008年4月より女子美術大学芸術学部芸術学科教授。国際美術評論家連盟理事、全国美術館会議理事。プラハ国際現代美術トリエンナーレ2008国際キュレーター、第53回ヴェネチア・ビエンナーレ美術展日本館コミッショナー。
協賛: 株式会社 八洋 / ANTIQUES THE GLOBE