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洋画と手芸
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©Ken Sasaki |

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2025年3月21日(金)~ 5月10日(土)
営業時間: 火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
オープニングレセプション:3月21日(金)17:00 ~ 19:00
作家:三岸節子 / 佐々木健 / 谷澤紗和子 / ホウ・イーティン / 鴨居羊子 / 宮田明日鹿 / 碓井ゆい
nca | nichido contemporary art は能勢陽子氏キュレーションによるグループ展、「洋画と手芸」を開催いたします。
「洋画」と「手芸」―両者はまるで正反対のようにみえる。近代以降、観ることを目的とした芸術作品としての「絵画」や「彫刻」は男性が手がけるもの、家庭内で行われる編物・刺繍・裁縫などの「手芸」は女性が行う趣味的なものとされていた。昭和初期には、女性が画家、殊に洋画家を志すには、家庭と社会双方からの強い抵抗があった。日本画は子女の嗜みや教養と受け取られたが、「洋画」は男子一生の業とする社会通年があったのだ。対して「手芸」は、社会的、経済的価値の低いものとして女性に紐づけられ、工芸よりもさらに下位に置かれた。時が過ぎ、多様な素材や領域を横断する現在の芸術表現をみてみると、刺繍や編み物、アップリケ、切り紙などの「手芸」的要素はそこかしこに見出され、家庭内の仕事や消費社会における価値観を見事に逆照射している。さらに、ともに集い語らいながら編んだり縫ったりする行為は、地域のコミュニティ形成やケアとしても機能している。翻って「洋画」に目を向けてみると、日本近代美術の成立過程そのものの言葉とともにすっかり色褪せて、以前の権威を失ったようにみえる。いま、洋画の老舗画廊の現代美術部門であるnca|nichido contemporary artで展覧会をするにあたり、この両極端にあるかにみえる「洋画」と「手芸」を出会わせてみたい。
1928年に創業した洋画の老舗画廊である日動画廊は、岡田三郎助や梅原龍三郎、安井曾太郎などの洋画家と、これら男性画家に比べれば数は少ないものの、三岸節子や桂ゆき、桜井浜江などの女性画家たちを紹介してきた。三岸節子(1905-1999年)は、当時の例に洩れず父から日本画をするよう嗜められたが、洋画家への道を突き進んだ。三岸が戦後、1945年9月にいち早く活動を再開したのも、この日動画廊であった。また、日動画廊を代表する画家である鴨居玲(1928-1985年)の姉、鴨居羊子(1925-1991年)は、質素で地味な白い下着しかなかった1950年代に、ゆったりとした奇抜な下着の着用による女性精神の解放を謳った。現代の画家である佐々木健は、権威の象徴としての洋画の主題にはなりそうもない家庭内の手芸品や掃除道具を、油絵具で丹念に、微細に描き出す。谷澤紗和子は、切り紙の技法を用いて、岡田三郎助(1890-1954年)に師事した洋画家・有馬さとえ(1983-1978年)をモチーフに、当時形成された女性像やその背後に隠れた女性洋画家の抑圧や秘めた強さを掬い取る。碓井ゆいは、鴨居羊子の絵とともに、アップリケやパッチワークを施した下着やベッドカバーを展示して、社会から見えなくなった家内労働や記憶を可視化する。台湾出身のホウ・イーティンは、日本統治時代の学校における良妻賢母教育としての裁縫や園芸を、記録写真に施した刺繍により浮かび上がらせる。宮田明日鹿は、手芸を介して人々がともに語らい互いの人生を編みあげる、寄り合いの場としての「手芸部」を各地で展開している。かつての女性芸術家たちの奮闘と「手芸的」要素を取り込んだ現代作家たちの作品は、マイナーとされてきたがゆえの自由で奔放、ユーモラスな作品で、特権的な美術制度に反旗を翻すだろう。
能勢陽子(キュレーター)
碓井ゆい(1980年生まれ/東京都出身、埼玉県在住)
刺繍やアップリケ、パッチワークなどの手芸的な手法を用いて、社会の中で見えなくなっている家庭内の労働や歴史における女性に対する抑圧や暴力を、インタビューやリサーチに基づきながら可視化する。
鴨居羊子(1925-1991年/大阪府出身)
戦後の白い質素な下着しかなかった時代に女性が楽しむカラフルなランジェリーをデザインし、下着界に革命を起こした。弟は洋画家の鴨井玲。ファッション・デザイナー、画家、人形作家、文筆家として、マルチな活動を展開した。
佐々木健(1976年生まれ/神奈川県出身、東京都在住)
雑巾、テーブルクロス、テニスボールなど、大文字の絵画の主題になりそうもない身近なものを、油絵具で写実的に描き出す。その作品は、普段目に留まることのない対象に改めて意識を向けさせ、家庭内の労働やケアといった問題を照らし出す。
谷澤紗和子(1982年生まれ/大阪府出身、京都府在住)
美術制度のなかの周縁に位置付けられていた切り絵の手法を用いて、近代以降に形作られた「女性像」をテーマに制作する。その作品は、女性の表現者に対する固定観念に疑問を投げかけつつ、オマージュを捧げて抑圧からの解放を試みる。
HOU I Ting (1979年生まれ/高雄市[台湾]出身、台北市在住)
女性に紐づけられる裁縫や調理などの手法を用いて、植民地主義や経済システムにおける女性の労働環境や教育による精神と身体両面に植え付けられるジェンダー規範を問う。
三岸節子(1905-1999年/愛知県出身)
戦前、戦後を通じて活動。1921年に洋画を学ぶため上京。本郷洋画研究所で岡田三郎助に師事し、その後女子美術学校(現・女子美術大学)で学ぶ。1924年に洋画家の三岸好太郎と結婚するが、1934年に死別、その後画家を生業とする決心を固める。1947年に女流画家協会を結成するも、その後脱退。
宮田明日鹿(1985年生まれ/愛知県出身、三重県在住)
改造した電子編み機や編み物により作品を制作する。自身の制作とともに、近年は被災地を含む各地でともに編み、縫う手芸部を結成し、幅広い年代の互いの物語を編み上げる活動を展開している。