坂本和也「IN BLOOM」

坂本和也
「IN BLOOM」

2024.1.12 - 2.10

©Kazuya Sakamoto
Press Release

会期:2024年1月12日(金)- 2月10日(土) 
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝日休廊) 
オープニングレセプション:1月12日(金)18:00 – 20:00

nca | nichido contemporary artは坂本和也による個展「IN BLOOM」を開催いたします。
坂本はこれまで自身の趣味である水草の栽培(アクアリウム)を通して生態系の構成要素のなかに人間の社会環境との類似性をみたことから、水草をモチーフにして絵画を制作してきました。近年は制作の拠点を名古屋から米子へ移したことがきっかけでガーデニングをはじめ、「増殖」して増えていく水草に対し、「繁栄」して次の世代に種を残していく花の生存戦略に興味を持つようになったといいます。花の栽培、育種、観察を通して人生における偶然と必然、ライフサイクル、人間と自然との関係を考察しキャンバス上に展開します。
複雑に層を重ね、敢えて偶然性を取り入れ、時に坂本の身体をもって即興的に描かれる花々は、各々が存在感を残し絶妙にバランスを保ちながら生存する生命の強さ、戦略、刹那な運命についても表現されます。
本展では、本展のために制作した最新作を発表します。
 



 
ある庭の管理をすることになってから、10年が経った。管理、といっても月に2度ほど数名が集まり、草を刈り、落ち葉を集め、時折樹木の剪定を専門家の手を借りながら行い、状態をキープすることだけようやくできている、という具合ではあるが。季節のサイクルと共に植物は変化し続ける。芽吹き、花をつけ、実がなり、枝だけを残して全てが失われたかのように見えるが、地表に落ちた有機物は分解され土となって養分として植物に還っていく。庭との付き合いは、人もまたそのような循環のうちに在る、という当たり前のことに気づかせてくれる。
少し前に鳥取に居を移した坂本和也は、広いスタジオと共に庭を手に入れ、絵を描きながら植物を育てる生活を送っている。種を蒔き、あるいは苗を植えて、多種多様な花を観察する時間から作品が生まれたという。どおりで彼の描く絵画は、いわゆる「静物画」のような花瓶に活けられたものとも、「花鳥画」のような装飾的で形式ばったものとも異なり、極めて動的だ。自由闊達に躍動するストローク、ドリップやスプラッシュの多用は、力をそのまま伝え、偶然性を取り入れる。色彩は画面上で混じりあい、「In Bloom」―開花という爆発的な刹那を捉えている。字義どおり、”ムーヴマン”-Mouvementが、カオティックなエナジーに満ちるこのシリーズの特質の中心を占めている。植物と向き合う日々の営みを通じて、その目に見えない内側からの力動を感受し、共鳴する身体を養ってきた坂本だからこそ、至ることのできた表現であると言っていい。
こうした身体は、2013年から取り組む水草のシリーズを通じても実践されてきたプラクティスの賜物だろう。水中を観察し、微細な声を聞き、応答することで生じる変化をまた観察することの繰り返し。そうして得られた特殊能力をもって水生植物、微生物や生体が複雑に連関しながら生態系を作り上げる様を作品化したものがかの連作であり、緑色のグラデーションによるオールオーバーな画面として結実した。オートマティックに反復される筆致は細胞の増殖と相似形を成し、絵具の盛り上がりによる物質性は触覚的で、彼の身体を刻印すると同時に、観る者の身体感覚に作用する。
この触覚性は、花の新作においてさらに存在感を増した。表面の凹凸は一層激しく、また指で直接キャンバスを撫で回したかのような痕も見られる。流動的で未分化なまま留まっている絵具は艶めいて光り、フェティッシュな官能性さえ帯びている(言うまでもなく、生殖器官を備える花とは、生存を懸けた存在だ)。そこには形態が解体した不定形の物質の世界、触覚でしか捉えられない「おぞましいもの」にリアリティを見た画家の姿を見ることができる。思わず花のイデア化を批判したバタイユを思い起こさせる坂本の描く花は、作品を通して生命の真実を追求してやまない執念のようなものを宿す。恐らく、彼にとっての絵画は庭と同様に、生の全体像を測るための実験場であり、世界と交感し認識するためのかけがえのない方法なのだろう。

赤井あずみ(鳥取県立博物館 主任学芸員)

坂本和也 | Sakamoto Kazuya
1985年 鳥取県米子市生まれ、在住
2014年 名古屋芸術大学大学院美術研究科美術専攻同時代表現研究領域 修了
2017-18年 文化庁海外派遣制度にて台北に派遣
主な個展に、”Spring ephemeral”, nca | nichido contemporary art, 東京(2020)、” Symbiosis”, galerie nichido Taipei, 台北 (2018)、“Landscape gardening”, 米子市美術館, 鳥取(2017)など
主なグループ展に、“ヤンオカ vol.2”, MtK Contemporary Art, 京都(2022)、”Next World―夢みるチカラ タグチ・アートコレクション×いわき市立美術館”, いわき市立美術館, 福島(2021)、 “Identity XIII - Je t'aime… moi non plus -アートを巡る「愛」の旅- ―curated by Daisuke Miyatsu―”, nca | nichido contemporary art, 東京(2017)、 “Some Like It Witty”, Gallery EXIT, 香港(2014)など

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