ホセ・ダヴィラ「River Stones / リバーストーンズ」

ホセ・ダヴィラ
「River Stones / リバーストーンズ」

2024.4.5 - 5.18

A secret wish | 2023 | Photo by Agustín Arce | ©Jose Davila
Press Release

場所:nca | nichido contemporary art
会期:2024年4月5日(金)- 5月18日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝日休廊)
*4月27日 (土) から5月6日 (月)まで休廊いたします。
オープニングレセプション:4月5日(金)17:00 – 19:00 
*オープニングに合わせ、作家が来日いたします。

nca | nichido contemporary artは、メキシコ人アーティスト、ホセ・ダヴィラによる日本初個展、「リバーストーンズ」を開催いたします。
ダヴィラは芸術史における重要なアーティストや建築家の作品をアプロプリエーション(模倣、流用、引用)することによって、芸術作品に重要性や意味を与えるのは形ではなく、内容であるとするコンセプチュアル・アートの定義について考察しています。空間への鋭い眼差しと、質量、バランス、物質性といった物理的な力の分析を展開し、美術史と対話する形式的な作品群を確立しました。
本展では、不安定なバランスを通して重力エネルギーを視覚的に表現すること、そしてダヴィラにとって特別な意味を持つ歴史的文献に注意を向けさせるといった、彼の制作活動全体にある一貫したテーマにフォーカスした新作から絵画9点と彫刻2点を発表いたします。


ホセ・ダヴィラ個展に寄せて

本展で展示されている絵画シリーズのタイトルでもある≪The fact of constantly returning to the same point or situation (決まって元の地点や状況に戻る)≫は、ダヴィラが実際に辞書の中で見つけた円形についての定義から派生している。このタイトルが示す通り、キャンバスにはいくつもの円や同心円、それも人間がフリーハンドでは描き得ない完璧な円形が描かれている。塗りのタッチ、輪郭線、色の選択、重複や分割のデザイン等は統一されておらず、異なる時代の美術史のアイコニックな円形を鑑賞者に想起させる。例えばフランク・ステラの分度器シリーズを。ガブリエル・オロスコのダイアグラムを。ウィリーズ・デ・カストロの新具体主義を。ソニア・ドローネーのオルフィスムを。ヒルマ・アフ・クリントの神秘主義を。フランシス・ピカビアの機械化された世界を。あるいはゾフィー・トイバーのリズミカルな新言語を。それぞれの時代で芸術家たちを魅了してきた円を、ダヴィラが再構築して画面に配置しなおす時、混ざり得ない時空が曼荼羅のように交差し共存する。別の次元から切り取られてきたことを暗示するように、円の周囲はしばしばキャンバスのリネン地がむきだしになっており、時にその虚空が別の円形を構築する。ダヴィラにとって不在は存在と同じ位に意味を持ち、著者のいない幾何学形も著者のいる美術作品と同様に重要である。
美術史の中のアイコニックな円形が、完璧で理想的な「円」という概念を(各々の作家が独自性を付して)流用したものであると解釈すれば、ダヴィラはそれらを再流用し組み合わせることで、イデアとしての円の存在を逆説的に浮かび上がらせている。
再流用と再構築の概念は、デュシャン的な謎めいたユーモアを感じさせる2つの彫刻作品《Acapulco chair stack》(2024)と《A Secret Wish》(2023)でも見られる。これらの作品のインスピレーションの元になった「アカプルコチェア」は、金属のフレームにビニール素材のコードを巻き付けることでハンモックのように身体を包み込む椅子で、メキシコから世界へと広まった。この椅子の基本的な構造自体には(円形と同じく)特許の保護はなく、誰もが製造、翻訳可能な製品である。ダヴィラの《Acapulco chair stack》は、積み重ねられた2つのアカプルコチェアの金属フレームに大きさの異なる玉石がその体をゆだねているという構図を持っており、遠目からは、黄色い金属のフレームと玉石が小さな惑星とその軌道のようにも見える。個々の素材は固定や接着をされているわけではなく、接触などで危ういバランスが損なわれてしまう可能性を内包している。ブランクーシやアンソニー・カロをはじめ、20世紀以降の彫刻史では重力から解放され空間を浮遊するような軽快さを追求する動きが生まれて久しいが、ダヴィラの作品は何事も重力から逃れられない事実を改めて強調する。玉石は頼りない金属フレームにその重量を預けつつ、不安定な椅子を地面に安定させておくための重りの役割も兼ねており、人の生み出した工業的幾何学形と自然の有機的造形はお互いに依存関係にある。
すべてが崩れ落ちる一瞬手前の凍り付いた時間のようにも見えるこの作品は、時間の不可逆性も強調している。無論、玉石も金属フレームもある程度固い素材ではあるし、崩れたとしても壁から落ちたハンプティダンプティのようにならない。しかし、直感的に「元の状態には戻らない」と感じさせるような緊張感が鑑賞者も含めた場に満ちており、鑑賞者と作品はお互い不可侵の信頼の元に、見る/見られるの関係を結ぶ。
原型としての円に立ち返り続ける《The fact of…》と、不可逆性を感じさせる《Acapulco chair stack》は対照的に見えるが、相容れない複数の要素が重なり合って作用し、調和、差異、矛盾、摩擦、緊張、信頼を内包しながら、一時的にでも均衡が保たれる姿という点では類似点を見ることができる。それは、私たちの見ることへの欲望を刺激する姿であり、私たちが生きる世界の姿とも重なっている。

小高日香理(東京都現代美術館 学芸員)


Jose Dàvila / ホセ・ダヴィラ
1974年にグアダラハラ(メキシコ)生まれ、在住。
「Instituto Tecnológico y de Estudios Superiores de Occidente (ITESO)」で建築を学んだ後、ヴィジュアルアートを独学で学び、彫刻やインスタレーション、絵画、写真で表現。
チューリッヒ現代美術館(スイス)、ダラス・コンテンポラリー(テキサス)、JUMEX美術館(メキシコシティ)、ハンブルク・クンストハレ(ハンブルク)、ノヴェチェント美術館(フィレンツェ)など60以上の個展を開催したほか、第16回リヨン・ビエンナーレ(2022年)、第13回ハバナ・ビエンナーレ(2019年)、第10回メルコスール・ビエンナーレ(2015年)などの国際展やグループ展に多数参加している。
ダヴィラの作品は、メキシコ大学現代美術館(MUAC、メキシコ・シティ)、国立ソフィア王妃芸術センター美術館(マドリード、スペイン)、インホティム美術館(ブルマディーニョ、ブラジル)、ペレス美術館(マイアミ、フロリダ)、バッファローAKG美術館(バッファロー、ニューヨーク)、サンアントニオ美術館(サンアントニオ、テキサス)、ソロモンR.グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、ポンピドゥー・センター(パリ)、ハンブルク・クンストハーレ(ハンブルク)、ルクセンブルク近代美術館、タグチ・アートコレクションなど多くの美術館やインスティテュートに収蔵されている。
2017年BALTIC現代美術センターの新年次芸術家賞、2016年ワシントンDCのハーシュホーン美術館の芸術家栄誉賞、2014年EFG ArtNexusラテンアメリカ芸術賞を受賞し、アンディ・ウォーホル財団の支援、ベルリンのKunstwerkeレジデンス、2000年メキシコ芸術評議会(FONCA)による若手芸術家のための国家助成金を受けている。2022年には過去20年の活動を紹介する大規模なモノグラフが出版された。

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