Once upon a future – ある未来の話2020 10.23 - 11.28 |
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Once upon a future – ある未来の話
会場:nca | nichido contemporary art
会期:2020年10月23日(金)-11月28日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
Artists:Busui Ajaw / Au Sow-Yee / Chang Li-Ren
ブスイ・アジョウ / オウ・ソウイ― / ヂャン・リーレン(張立人)
nca | nichido contemporary art はグループ展、「Once upon a future – ある未来の話」を開催いたします。“Once Upon a Future”は、昔話(神話や言い伝え等)の冒頭で用いられる*once upon a time …. ( *「むかし、むかし」の意味) になぞらえた造語です。昔話は世界各地に存在し、長い年月をかけて少しずつ変化しながら多くの物語が語り継がれてきました。架空の、あるいはデフォルメされた内容にも各々ルーツがあり、そこから時代背景、文化、伝統、精神を想像することで新たな歴史の側面が見えてきます。なかには現代にも通じる数々の教えや教訓も含まれ、当時の世の不安や恐れ、集団のなかに普遍的に存在する支配力に圧迫された人々の声、そして未来への願いや希望、理想郷も込まれているようにもみえます。SNSの普及によって多くの情報を収集できる現在、私たちは世界で起こっている事件や問題をオンタイムで共有することができ、以前は知り得なかった小さな声も拾うことができるようになりました。反面、情報の交錯が判断力を鈍らせ、真実を見誤ることも少なくありません。本展では上記3名の異なるバックグラウンドを持つアーティストが自身の体験をもとに、それぞれの視点で歴史を横断しながら多様化、複雑化する現代社会が抱えるさまざまな問題、そして未来への課題を提示し、私たちに直面するであろう問題を投げかけます。
台湾出身のヂャン・リーレン(b.1983)は主に映像作品、アニメーション、インスタレーションを用いて歴史を元に新たな物語を創造します。フランスの哲学者、ボード・リヤール(1929 – 2007)が提唱する「シミュラークル(模像 / 幻影)」の概念を取り入れ、コンピューターやテレビなどのデジタル技術によって現実よりも、よりリアルなイメージを創造することができる現在、私たちの暮らしに存在するシミュラークルが想像と現実との境界を完全に崩壊してしまうことに警鐘を鳴らします。「Battle City(バトルシティ)」は 社会、メディア、大国、宗教などの今抱えるさまざまな問題を風刺したアニメーション作品です。映像内に登場する模型は全て作家の手で作られ、今回出展される「Battle City - エピソード1」の制作に7年かけており、現在はエピソード2の制作を進めています。本作品は制作過程そのものがヂャンの究極の目的であり、ヂャンのライフワークといえます。
マレーシア出身のオウ・ソウイ―(b.1978)はイメージの持つメカニズムに強く興味を持ち、主に映像やインスタレーションを通して歴史、政治、権力、画像との関係性を探求しています。植民地、冷戦時代の書籍や資料、映画、またその土地にある口承を作品に取り入れ、ドキュメンタリーとフィクションの境界を行き来させながらマレーシアや東南アジアの歴史を解き明かそうと試みます。本出展作品、「城、谷、名もない島と月世界への帰還」では、マレーシアの森で行方不明となり、いまだにミステリーとなっている*ジム・トンプソン(1906 -?) を題材にしています。ジムの失踪にまつわるさまざまな伝承とオウの想像を織り交ぜたあいまいで不可解な物語は、多くの謎を残すも、映像のなかにちらばったパズルのピースを合わせることで新しい歴史的真実がみえてくるようです。*タイシルクを世界に広めたことで有名なアメリカ人実業家。
タイ最北の地、チェンライ出身のブスイ・アジョウ(b.1986)が描くペインティングは、彼女の背景と密接につながっています。東南アジア本土の高地から国境を越えて暮らす遊牧少数民族(アカ族)職人の家に生まれたアジョウの芸術的実践は家庭環境から得たものです。彼女は表現のなかに口承文学を引用しています。アカ族にとって文化や民族の歴史、伝説、風習の伝達の手段であった口承文学は、近年の電気の普及による急激に変化した生活様式によって失われつつあります。アジョウはそのカケラを拾い集め、自身の現代の生活に織り交ぜながら絵画に表します。
*Courtesy of Chang Li-Ren, nichido contemporary art and Chi-Wen Gallery