越中正人:「つまり

越中正人:「つまり "please" / Please let me...」

2018 11.29 - 12.25

オープニングレセプション:11月29日(木)18:00 – 20:00
オープニングに合わせ、作家も在廊いたします。
Supported by DMM.make | 株式会社オルジェスタ

"three-way", 2018, 40 x 60 cm, C-print, ©Masahito Koshinaka
Press Release

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2018年11月29日(木) – 12月25日(火)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
オープニングレセプション:11月29日(木)18:00 – 20:00
オープニングに合わせ、作家も在廊いたします。
Supported by DMM.make | 株式会社オルジェスタ

この度、nca | nichido contemporary artは、越中正人の新作個展「つまり“Please” / Please let me…」を開催いたします。越中正人はこれまで「集合」と「個」- 集合(集団)のなかにおける個々(個人)の位置、存在意義、またその関係性を自身の経験を通して他視点から考察し、写真や映像を用いてそれを作品に表してきました。それはメディアによって植え付けられた現代社会の暗黙のルールに、私達日本人の多くが当たり前のように受け入れ、集団規範に縛られている風潮に違和感を覚えたことが背景にあります。
本展では、今日本が抱える問題の一つである私たちの労働への関わり方に焦点を当て、越中本人や近しい友人の体験やメディアで最近大きく取り上げられた事件を題材に、写真と映像、そして最先端の技術、AR(Augmented Reality - 拡張現実)を取り入れた作品で構成します。


 
集団の中での個の存在意義、アイデンティティは、他者や社会との関わりの中で形成されるが、絶えず喪失する危機にもさらされている。さまざまな関係性のなかで揺らぐ自己。今の時代にあっては、精神のバランスを保つこと、普通に生きることこそ困難なようにも思える。では私は社会や他者とどのような関係を結べばよいのか?何かへ帰属することが私を保つことになるのか?何かを信じるべきなのか?誰もはっきりした答えは持たないまま毎日をやり過ごしている。私たちは自己を仮装しているだけなのかもしれない。「何かによる、何かしらの。何かであって、そして何だか正しいらしい何か」(昨年開催されたギャラリーパルクでの個展のタイトル)の領域は果てしない。これまで越中は、写真と映像を用いてこうした問いかけを作品化してきたが、ギャラリーパルクでの展示では、新たな試みとして、AR(Augmented Reality=拡張現実)を取り入れた「写真作品」、《checking "checking answers"》を発表した。「実像」しか写せない写真に対して、写真に写すことのできない、その場所や建物などが持つ背景や物語、歴史等を語るイメージを、タブレットを写真にかざすことで、ARとして出現させた。展示では、さらにARを通してあらわれるイメージも撮影され、「実像」の写真として並置されている。鑑賞者は、その写真とタブレット越しに映るイメージとを見比べる答え合わせ的な作業をすることになるのだが、結果として、目の前にある世界の不確かさ、疑わしさはより強調されることになった。
 今回の個展のテーマは、今の日本が抱える問題の一つである私たちの労働への関わり方についてであるが、越中は引き続きARの技術を取り入れて作品を制作した。労働の現場においても、なんとなくあいまいに決定される雇用の形態。例えば「本当は契約じゃなく正社員とかでもっと続けて欲しいけど、会社の決まりで3年しか働いてもらえない」と言ったような言葉にみられるあいまいさは、自身の経験も踏まえた上で、“please”という言葉であらわされるのではないかと越中は言う。あいまいな「お願い」と言ったらよいだろうか。一方で、労働者が、“please let me…”と言ってしまう、あるいは言わざるをえないような状況もある。しかし、こうした“please/“please let me…”は、現場では巧妙に隠そうとしているように見受けられ、問題はあってもその本質がわかりづらいことがあると。

 越中は作品制作のために、蜘蛛を捕獲し、蜘蛛に巣を作らせた。作品の写真には、テニスラケットにはりめぐらされた蜘蛛の巣が前景に、そして背景にはぼんやりと、幼児向けのテレビ番組として放映される『きかんしゃトーマス』らしきイメージが写っている。『きかんしゃトーマス』の各場面は、当初は放送の場面を引用する予定だったが、著作権の問題から最終的には、越中自身が似せたイメージを描き、撮影することになった。タブレットを写真にかざすと、ARによって、「じつは僕、これから役に立つ仕事をしなくちゃいけなくてね」「私たちは本当に役に立つ機関車にならないとね」といったトーマスたち機関車のセリフがあらわれる。荷物やお客を運び、「役に立つこと」はトーマスたちのモチベーションで、トーマスたちは「役に立つ機関車」を目指して労働を続ける。見返りは求めない。一方で蜘蛛が巣を作るのは生存のためなのだが、今回は越中の作品のために、本来の本能から離れた目的で利用されている。越中は、トーマスの写真を使うと著作権違反となるため、トーマスの絵を描く。作品には、三者の「労働」が絡み合っている。蜘蛛、トーマス、越中という三者の関係性には、越中自身が感じた労働の現場での“please”が交錯しているのだろうか。働くことのなかに、本当に自分の意思があるのかどうかということも、越中は作品を通して問うているように感じる。
 個展では、外国人技能実習生に関する作品も出品され、映像や写真に、ARが加わることによってこの問題に対するさまざまな視点が見えてくるものと思われる。
 越中は、これまでもさまざまなメタファーを用いながら、社会の暗黙のルールなど、私たちを取り囲む不可視の領域を捉えて作品としてきたが、現実のあり方がより多様化し多層化する社会にあって、今後も作家がどのようにこうした諸問題と向き合っていくのか、引き続き注視していきたい。

奥村 一郎
和歌山県立近代美術館 学芸員

越中正人 Masahito Koshinaka
1979年大阪生まれ。現在神奈川県在住

個展:“NEWoman ART wall”, ニュウマン、東京(2018) /「何かによる、何かしらの。何かであって、そして何だか正しいらしい何か」ギャラリーパルク、京都 (2017) / “from one pixel” ポーラ美術館、箱根 (2015) / “Anagolism” C.A.P 神戸、兵庫 (2015) / “individuals” nca | nichido contemporary art 東京 (2011) / “double word” nca | nichido contemporary art, 東京 (2008) / “a view from the view”, VOICE gallery, 京都 (2006) / “Those who go with me” VOICE gallery, 京都 (2004)
グループ展:“small works” nca | nichido contemporary art 東京 (2013) / 15th WRO Media Art Biennale ヴロツワフ、ポーランド(2013) / BIWAKO biennale 滋賀(2012) / 越後妻有アートトリエンナーレ FUKUTAKE house (2009) / “Identity IV-curated by Kentaro Ichihara-“ nca | nichido contemporary art 東京 (2008) / UBS Young Art G27, チューリッヒ、スイス (2007) / “Masahito Koshinaka + Yukihiro Yamagami”, baobab京都 (2007) / “into the photograph, out of the photograph” Third gallery Aya 大阪 (2007) / “ZONE – PPOETIC MOMENT” Tokyo Wonder Site 東京 (2005) / Toyota Triennale 豊田市美術館 (2004)
受賞歴:“Mio Photo Award 2000” 天王寺Mio 大阪 (2000)
コレクション:UBS チューリッヒ、スイス / BT Collection / ポーラ美術館 他プライベートコレクション


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