identityXI POST CONFLICT - curated by Bradley McCallum-2015 3.6 - 4.18オープニングレセプション: |
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会場:nca | nichido contemporary art
会期:2015年3月6日(金)- 4月18日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
レセプション:3月6日(金)18:00 – 20:00 *オープニングに合わせ、ブラッドレー・マッカラムが来日します。
*スペシャル・トークイベント:3月6日(金)19:00 –
ゲスト: 野口元郎氏 (国際刑事裁判所被害者信託基金理事長、元カンボジア特別法廷最高裁判部国際判事)
この度、nca | nichido contemporary artは、グループ展「identityXI - POST CONFLICT - curated by Bradley McCallum-」を開催いたします。
本展覧会は、nca所属作家のブラッドレー・マッカラムによる企画で、政治的に糾弾された状況下におけるアイデンティティと紛争をテーマにしています。マッカラムは、説明責任の問題について私たちに考えさせる国際的なアーティストの作品を集めることで、芸術が社会政治的(ソシオポリティカル)な意識や重要な反応を促進するものとして用いられる可能性について検討を促します。本展では、アイ・ウェイウェイ(Ai Weiwei)、潘 逸舟(Han Ishu)、ジェニー・ホルツァー(Jenny Holzer)、ピーター・ヒューゴ(Pieter Hugo)、マッカラム&タリー(McCallum & Tarry)、ラナ・メシック(Lana Mesić)、リチャード・モス(Richard Mosse)、ダーポ・レオ(Daapo Reo)、クリエイティブ・コート(Creative Court)の作品を展示します。
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アイデンティティ XI―ポスト・コンフリクト―
本展は、「国際刑事裁判所のためのNGO連合」(The Coalition for the International Criminal Court、以下CICC)のレジデンスプログラムの参加作家である私(ブラッドレー・マッカラム)の作品と、国際正義に関する問題について作家を新たな対話に引き込もうとするCICCの芸術的イニシアチブの長期的任務を定義し、主導する立場にある私によって形づくられています。私はCICCと恊働したプロジェクトにおいて、戦争犯罪や大量虐殺、人道に反する罪で国際刑事裁判所(International Criminal Court, 以下ICC)に起訴された個人や、不処罰に終止符を打つために努力している人たちについて検討します。たとえばコンゴ民主共和国からの犯罪者がICCで裁判にかけられているときでさえ、その根底にある紛争は続いています。
「ポスト・コンフリクト」は、紛争の終わりと、開発援助や再建、説明責任の新しい時代の始まりを示すために、国際的な回復と正義のコミュニティにおいて用いられる一つの概念です。しかし、紛争「以後」を示す時間の長さは、一定ではなく、脆く、そして過渡的な正義の問題から市民社会の再建に至るまで、多様な挑戦の連続を含んでいます。問題や地域、政治とタイミングはすべてまちまちであるとはいえ、理解できない人間の虐待を扱い、不正義を自己分析の機会とし、視覚的・詩的な方法で私たちの注意を集中させる芸術の力は不変のまま存続します。
本展は、アーティストが過激な紛争、権力の濫用、国際関係といった状況に応えた、それぞれの異なる方法を強調します。ある者は政治的かかわりのある仕事に長期にわたって従事し、またある者は虐待の一つの例を扱います。ある者は国の役割に疑問を持ち、またある者は許しと和解についてのより個人的な影響力を探究します。
クリエイティブ・コートによる「アフリカ人とハーグの正義」シリーズは、ICCの展望と現実を熟考するために、2014年に制作されました。ガド(タンザニア)、ビクター・ンドゥラ(ケニヤ)、ブランダン・レノルズ(南アフリカ)、グレズ(ブルキナ・ファソ、フランス)ら著名なアフリカ人漫画家の作品が、このシリーズのなかで表現されています。ある漫画は起訴されたリーダーを揶揄し、またある漫画は証言台に立つ証人たちの境遇を熟考し、ICCの倫理に疑問を投げかけます。有名な新聞で発表されたそれらの漫画は、アフリカや海外の一般大衆にとって影響力のある情報源のひとつです。ガドが言うように「風刺は重要な仕事」なのです。
クリエイティブ・コートは、ハーグに拠点を置く、芸術と世界的な正義のインターフェースとなる組織です。
ジェニー・ホルツァーは、9.11後の政治的風景について扱っています。彼女は、指令、電子メール、政策立案者、兵士、囚人の証言を通して、イラク、アフガニスタン、グアンタナモ湾(米軍基地)における、秘密工作、幽閉、捕虜虐待、戦争悲劇についての議論をたどります。機密解除された文書が拡大されたシルクスクリーン絵画を通して表現された、グアンタナモ湾の抑留者を描いた彼女の肖像画は、捕虜虐待を詳述します。アブグレイブ刑務所、グアンタナモ湾、ウォーターボーディング(拷問、水責めの一種)、ジュネーブ協定――拷問の主題は急速に、倫理、市民の責任、代表の問題を浮き上がらせます。彼女の絵はしばしば目に見えない文書に触覚を与え、隠された過去と変装した現在を可視化します。
ルワンダ大量虐殺から20年を経て、一部の犠牲者は犯人を許したと言います。写真家ピーター・ヒューゴとラナ・メシックは、彼らの許しを可視化するために、2014年前半にルワンダを旅しました。「ルワンダの20年:和解の肖像」シリーズは、ハーグに拠点を置く、芸術と世界的な正義のインターフェースの組織であるクリエイティヴ・コートによって委託されました。メシックとヒューゴは、(現地で)許しの様々な側面に遭遇し、互いを許した人々の異なる関係性を捉えました。ヒューゴはニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「写真の中にあなたが見る遠さあるいは近さはとても正確です」と語っています。その肖像作品に加えて、メシックはポスト・コンフリクト的状況の彼女の詩的な知覚と同様に、許しのプロセスを可視化しようとすることによって、許しについてのひとつの熟考する概念を着想しました。「私が写真を撮る人々は、優しく、穏やかに話します。彼らは紙のようにとても脆いです。が、壊れてはいません。彼らの無口な心臓はまだ鼓動しています。私は、彼らが運んできた歴史の重さを、袋、バナナ、ジェリー缶、緑の草の大きなボールへ、文字通り変容させたかったのです。なぜなら、その時、その(歴史という)重圧を置いて逃げることが、より簡単な仕事であったに違いないからです」と、彼女は言います。
2012年、リチャード・モスと彼の協力者は、一年を通して、頻発する待伏せ、大虐殺、組織的性的暴行によって苦しむ交戦地帯で武装した反乱軍に潜入しながら、コンゴ民主共和国東部を旅しました。彼の最新作インフラシリーズは、コンゴ民主共和国内における反乱軍とコンゴ国軍の間で進行中の戦争を捉えています。インフラシリーズは、モスがコダックのエアロクローム(赤外フィルム)を使用することによって、ピンクと赤の美しく超現実的な景色で表現された青々としたコンゴの熱帯雨林に特徴づけられます。モスは『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・フォトグラフィー』誌のインタビューで次のように語っています。「私はこの技術をより厳しい状況に運び出し、石灰化したマスメディアの物語の一般的な慣例を逆転させ、我々がこの忘れ去られた紛争を表象し得る方法に挑戦しようとしました… 私はこの軍の偵察技術と対決し、戦争写真がつくられる方法に疑問をかけるためにそれを思慮深く利用したかったのです。」
ダーポ・レオは、アフリカ人移民の放浪経験にまつわる言説に興味を持つ映像作家です。彼の作品は、アイデンティティ論争を引き起こす出来事や文化的状況を調査します。それらの作品は、抑圧され黙らされた声の存在の暴露を通じて、慣習的な構造に立ち向かい、宗教的・社会的条件付けを破壊する方法として、彼が明らかにする物語を周縁から中心へ動かすことを目的とします。
ハン・イシュ(潘 逸舟)は、主に映像と写真を用いるコンセプチュアル・アーティストです。彼の作品は、帰属意識や市民の義務の概念そのものを問い、そのような概念がいかに我々一人一人の声に影響するかという疑問を投げかけます。ハンは映像作品において、「アイデンティティ」の概念を探究するために、彼自身の身体と移民の歴史を用います。彼は異なる国籍、人種、民族性、文化を持つ人々が共存する方法を調査し、アイデンティティが記憶、文化、歴史と地理学を通して保持される方法を研究します。
ブラッドレー・マッカラム
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Bradley McCallum ブラッドレー・マッカラム
グリーン・ベイ(ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)生まれ。ヴァージニアコモンウェルス大学(1989年卒、美術学士)とイェール大学大学院(1992年修了、美術修士)で学ぶ。1997年以降、ニューヨーク州ブルックリン在住。
マッカラムのインスタレーションは、個人の抑圧された生とコミュニティの無力化を体現します。具象表現でありながら解釈の余地が残されている彼の作品は、犠牲者と犯人のための証言の役割を担っています。マッカラムは、研究者、アシスタント、制作スペシャリスト、彼の作品が言及するコミュニティなどで構成されるチームとの親密なコラボレーションのなかで、集合的な社会的肖像を創造します。彼は、人権と民主主義、そして今日の社会における社会的相互作用の無数の側面の基礎をなす暴力、疎外、非人間性といった概念の吟味のなかで、鑑賞者を活性化することによって彼らに挑戦します。個人の活動に加えて、1999年以降、マッカラムは共同制作を行う芸術家デュオ「マッカラム&タリー」のメンバーでもあります。彼らは共に、アメリカ合衆国における人種、正義、社会的排除のより重要な問題と取り組むために、個人的・人種的な歴史を強調します。彼らの共同作品は、しばしば大規模かつサイトスペシフィックであり、地元のコミュニティと向き合い、関係を構築するにあたって市民の力を頼りにしています。彼らの作品は、映像、絵画、パフォーマンスから、彫刻やインスタレーションまで多岐にわたります。
野口元郎 のぐちもとお
1961年東京生まれ。1985年法務省入省、検事任官。東京、富山、前橋、福島地検で勤務後、法務総合研究所教官、アジア開発銀行弁護士、国連アジア極東犯罪防止研修所教官、外務省国際法局付検事、法務総合研究所国際協力部長などを経て、現在最高検察庁検事。2006-12年まで国連とカンボジア政府が合同で設立した特別法廷(クメール・ルージュ裁判)の最高裁判部国際判事を務めた。2012年から国際刑事裁判所被害者信託基金理事長。2007-08年イエール大学ロースクール国際人権センター客員研究員、2009年から東京大学大学院総合文化研究科客員教授。
協力:Taguchi Art Collection, MISA SHIN Gallery