ジャン=リュック・モーマン「transgenerationconnection」

ジャン=リュック・モーマン「transgenerationconnection」

2013 9.6 - 10.5

オープニングレセプション
9.6 (金) 18:00 - 20:00

©Jean-Luc Moerman "Untitlled" 2013, 250 x 100 cm, mixed technics on aluminum (detail)
Press Release

会場:nca | nichido contemporary art
会期:2013年9月6日(金)-10月5日(土)
営業時間:火 – 土 11:00 – 19:00 (日・月・祝 休廊)
レセプション:9月6日(金)18:00 – 20:00 *オープニングに合わせ、作家が来日いたします。

この度、nca | nichido contemporary artは、ベルギー人作家ジャン=リュック・モーマンによる新作個展を開催いたします。 
モーマンはパブリックスペースを活用したウォールペインティングや、美術館内を覆い尽くすインスタレーションで一躍注目を集めました。枠にとらわれず、さまざまな素材を用いて描かれるモーマンの流れるようなペインティングは、対象や環境にすばやく呼応し、
絶えず姿を変えていきます。
本展では、アルミニウムやキャンバスにペインティングを施した作品に加え、スーパーモデル等の著名人のポスターにタトゥーのように描かれたドローイング作品を発表します。それは綿密に描かれたグラフィックとともにシンボリックな美しいモデルや著名人の被っているイリュージョンの裏に隠された内面世界や時代背景が垣間見えるようです。


19世紀末にモーリス・ドニは、絵画は「色彩で覆われた平坦な表面」と語った。この絵画に関する提言は、以後のモダンの絵画制作に少なからぬ影響を及ぼした。だが、この命題は明らかに間違っている。なぜなら、絵画は、ドニが言うように主題以前に色彩と平面の複合ではなく、一方の体系と他方の体系の間に変換規則を伴って、厳密な対応が設定される構造だからである。それは、絵画の歴史から自明と思われる。いわゆる具象画であれ抽象画であれ、この構造に根本的な変化はない。ドニは、それを視覚現象的に一面的に規定したために、絵画表現の明確な複雑さを軽く見積もってしまったのだ。それは、彼の絵画を装飾的に仕上げるよう促したばかりでなく、モダンの絵画の選択の範囲を狭めることに手を貸してしまったのである。
 だが、その後の絵画の歴史はドニの思惑に近い方向に進んだとはいえ、絵画の堅固な構造を変形させながらも保存しつつ展開していった。これが、20世紀の他のメディアの表現がドラスティックに進化したのとは違って、絵画という伝統的なメディアが遅々たる歩みを辿った一番の理由であり、20世紀の後半にその行き詰まりが広く喧伝される理由の一端ともなった。しかしともあれ、一般的にモダンアートは具象から抽象への移行として捉えられ、その代表的な表現メディアの絵画がメインストリームを築いてきたことは事実である。この具象から抽象への転換にも、絵画固有の構造は一貫して維持されている。さらに、モダンアートの行き詰まりを突破するポストモダンの絵画についても同様で、絵画が参照する体系が過去の絵画の集合であるという自己言及的な構造であった。
 そこで、21世紀に至ってジャン=リュック・モーマンが登場する。彼の絵画には、矩形のキャンバスに描かれる典型的なフレームの形態の他にも、壁面やオブジェに描画する変則的なタイプがある。しかも彼の狙いは、それらのタイプの作品を横断して本質的に違いはない。その目的は、彼独特の流動的でリゾーム的な形象で素材を覆うことで、覆われる諸々の対象の間にあるヒエラルキーを切り崩し、モーマン自身が言うように同じ生命体のレベルに引き戻すことにある。その様子は、歴史的な絵画の人物であれ、現代のイコンであるスターやモデルや政治家であれ、生と死に関して他の人間たちと同等の境位にあると言っているようだ。
 さて、モーマンの絵画に組み込まれている構造は、どのようなものだろうか? まず、彼独自の描線と色彩や素材で構成される記号表現(シニフィアン)が、記号内容(シニフィエ)のリゾーム状形態のイメージを生成する。そして、それが彼の選択した現代世界を象徴するオブジェ(自転車、自動車、ロボット、バッグなど)や図像(歴史的絵画、ファッションやニュース雑誌の写真、浮世絵など)に接合される。この表現で、刺青のように様々な支持体に刻み込まれるイメージと対応関係をなすのが、指示対象としての未来の現実世界である。モーマンは、描線を用いて奔放にイメージの増殖を繰り返しながら現実世界を覆い尽くすと同時に、それを解放(体系の要素の平等と自由)しようとしているのである。 市原 研太郎(美術評論家)


ジャン=リュック・モーマン
1967年、ブルッセル生まれ。パブリックスペースを活用したウォールペインティングプロジェクトを始め、バーゼル・アートフェア(2005年6月)やフリーズ・アートフェア(2004年10月ロンドン)では壁一面を埋め尽くすインスタレーションを発表。スウェーデンのファッション誌「BON MAGAZINE」(2004年秋号)の表紙では、スポンサー化粧品会社の化粧品を使ってモデルにペインティングし、注目を浴びる。2005年のAbsolute Vodkaの新しいラベルデザインや、Peugeotとのコラボレーション企画では新車にペインティングを施した。また、2008年にはLongchampの60周年記念に合わせて、オリジナルバック限定60個を制作・発表した。近年ではMOCA Shanghai (上海)やBusan Biennale2010 (釜山)に出展するなど活躍の場をアジアにも広げている。近年の主な展覧会:Palazzo Widmann, ベニス、イタリア/ Galerie Suzanne Tarasieve パリ、フランス / Gallery Isabelle van den Eynde, ドバイ、UAE NOSBAUM & REDING ART CONTEMPORAIN, ルクセンブルグ / Galerie Rodolphe Janssen, ブリュッセル、ベルギーなど

市原研太郎
美術評論家。展覧会カタログ、各種メディアに寄稿多数。著書に、『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』(2002年)、『アフター・ザ・リアリティ―〈9.11〉以降のアート』(2008年)、『現代アート事典』(共著、2009年)等。また、『Reality/Illusion』(2010年、ベルリン)等の展覧会企画も手掛けている

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